野毛ストーリー

  • 桜木町デパート[1] (大谷一郎)

      「桜木町デパート」。今四十代なかばすぎの人たちは、忘れられない思い出を持っているに違いない。 あの百貨店ではない。二階建ての建物がすべて三坪に仕切られ、百二十コマからなる棟割り長屋式の飲み屋のデパートである
  • 桜木町デパート[2] (大谷一郎)

    →前回からつづく   昭和三十四年。亀井政江さんは、桜木町デパートの一階中ほどに、三坪のコマを借りて、スナック「M」を出した。 店の内装もこぎれいにできたし、ピンからキリまである店並みでは、まず上の方。しかし、
  • 桜木町デパート[3] (大谷一郎)

    →前回からつづく   桜木町デパートの中ほど、今でいうなら牛井の 吉野家に向かい合うあたりに、不思議な店があっ た。 「安定屋」。屋号からして変わっているが、それ より何より、目を見張るのは、その商売のやり方
  • 星空の銭湯 (大谷一郎)

      昭和二十一年、野毛二丁目に野天風呂があった。 安本静江さん(70)はフトした表紙に、ゴッタ煮のようだったあのころを思ってなんともいえない気持ちになる。 横浜大空襲をのがれて、久保山から帰ってくると、余燼の中
  • 庭の千草(2) (大谷一郎)

      焼け跡にジャズ喫茶「ちぐさ」はよみがえった。そのウワサはあっという間に広がった。 それは進駐軍が日本人の買い物の場所として、野毛を指定したことにもよる。ここで何かあれば、それは当然、すぐハマのニュースとなる
  • 庭の千草(1) (大谷一郎)

    人生はメリーゴーラウンド。運さえよければ、出かけたところに戻ってくる。 焼土になった横浜に、一人の復員兵が帰ってきた。 不思議な兵隊だった。大陸にいながら一発の弾丸も撃たず、隠匿した「公用腕章」にものをいわせて毎晩のよう
  • リンゴ追分 (大谷一郎)

    右のポッケにや夢がある 左のポッケにやチューインガム・・・ 野毛坂をくだりきった交差点から「都橋」の交番まで、この道は戦後「野毛坂マーケット」といわれた露店がひしめきあい、売り声と買い物客のざわめきで明け暮れていた。 ど
  • 魚河岸に歌が・・・ (大谷一郎)

    昭和二十一・二年。 横浜は大空襲により、灰塵と帰し、わずかに焼け残ったビルには、星条旗かはためき、関内の空には、占領軍のオートジャイロか爆音をたてて昇り降りしていた。食糧事情は最悪。日に二、三人の餓死者が出る。連日の「米